今月で、ちょうど10年―。1月に、ある映画を見てきました。

2004年に起こったイラク日本人人質事件の当事者たちのいま、
高遠菜穂子さんと共に訪れたイラクの現状を伝えたドキュメンタリー。
その名も、彼らが拘束された地名を題名にした『ファルージャ』。
04年のイラク戦争のさなか、
目的を持ってイラクを訪れた日本人3人が、武装勢力に拘束された。
その後無事解放されるものの、3人は、軽率な行動が国に迷惑を
かけたとして「自己責任」を問われ、激しいバッシングにさらされる。
映画は、当時自己責任という言葉に違和感を持ったことから、
本人、メディア関係者、政治家、現地の人々と、幅広く取材。
事件に深く斬り込んでいく、監督の熱意に脱帽の1作です。
私は当時、仕事でメディアと関わっていたこともあり、
3人が危険な中でもイラクへ行こうと思った気持ちは理解できた。
逆に国民が、そんな彼らを執拗に(と、感じた)バッシングし、
「自己責任」を繰り返す声の方が信じられなかったことを思い出す。
監督のいう「違和感」に似た感情を持っていました。
当時、政府やメディアの命令でイラクへ行った人もいて、
その中には犠牲者もいた。自らの意思でイラクへ行った人は叩くけど、
そんな政府やメディアは、人に「イラクへ行け」と言うんだなと。
そして、そんな違和感を持った所に、大学の同級生が投げた言葉は、
私を二度びっくりさせた。メディアのネガティブ報道・バッシングのまま
意見を言うのである。「テレビ見ただろう、おかしいよ。あいつら」。
ああ…大学を出た人でさえ、こんなにテレビを真に受けるものなのか。
私が反論するも、その人の返事は、変わりませんでした。
「自己責任」という言葉が躍り出したきっかけの「自衛隊の撤退要求」は、
当時の私にとってはあまり大きな関心ポイントではありませんでした。
しかし、映画で見てから改めて過去のニュース記事を見てみると、
これが大きなターニングポイントだったことにも気づかされます。
イラクの武装勢力が、人質の解放の条件として掲げた
「自衛隊の撤退要求」を、当時の小泉政権は断固拒否、
新聞は一面に大きく「自衛隊は撤退しない」的な文字が掲載された。
いかにも「われわれ日本は悪には屈しない」という強気の記事に、
国民は「そうだ、そうだ!」と声を上げ、これを支持した。
それと対照的に、この発表により、ますます危機に面する人質。
家族は当然、その政府の決定に困惑し、マスコミに発言してしまう。
「そうだ、そうだ!」と政府に同調している国民は、おのずと
彼らと彼らの家族に向けて、イラクの武装勢力と同じ「悪」に
祭り上げてしまった…。
「自衛隊、撤収か否か」。郵政民営化の時も、
先日の東京都知事選でも使われた、単純明快な是非。
現在の政権も、放っておけば普段の生活を送れる日本で、
じわじわと何かわからない状況に持っていくかもしれない。
今、考えるにも十分価値のある、10年前の出来事なのですね。
あの頃、もし武装勢力の解放の条件として挙げていた「自衛隊の撤退」が
事件の争点にならなかったら、家族が要求しなかったら、
政府やメディアの対応は、少なからず変わっていたのかもしれない、と。
この辺においても、政府には責任はなかったのか…。
監督は、そんな自らの自衛隊派遣への批判をかわし、
「自己責任」論を展開した政治家への取材を試みるも悉く断られますが、
しっかりそのシーンを使うあたり、
「あなたの発言に"自己責任"はないのか」、という皮肉も。
でも、この映画を見ていると、そんな日本を
賑わしていた報道にはなかった、いろいろな驚きがありました。
今もイラクでは悲惨な状況が10年前のまま横たわっていることでした。
アメリカ軍は撤退した。日本の自衛隊も今はいない。
けど、そこに住む市民は今も危険な戦闘にさらされ、撮影中にも、
現政府と、対立する宗派の抗争が発生。
そして、先天性の障害を持った赤ちゃんが次々と産まれています。
この事実を、当時の日本人も、今の日本人もほとんど知りません。
報道量が圧倒的に少ないし、報じた所で見る人が少ないからか…。
思えば10年前、人質事件でイラクが注目されても、バッシングが突出し、
イラクの現状や、戦況などはほとんど目にしなかった記憶があります。
これは、他の国家をまたぐ問題が起きた時も同じ。
報道が進むほど、どんどん目立った個人へのバッシングや
些細な話に動きだし、本質から遠ざかっていく…。
・・・
映画では、被害に遭った3人のうち2人の声や今の様子と共に、
いまも続くイラクの現状も、きちんと丁寧に取り上げています。
10年前を再び思い出し、改めてイラクに思いを馳せるきっかけにもなります。
そして、少しでも関心のある人や、「あの"自己責任"事件ね」という
記憶しかない人達にも、是非見てもらいたい映画です。

私が映画を観に行った1月26日。劇場には、
監督の伊藤めぐみさんと、当事者の高遠菜穂子さんが登場。
10年前の、恐怖にさらされておびえていた彼女のイメージとは全然違う、
今もイラクに通って人道支援に務めている元気な様子を見せてくださいました。
【予告映像】
【映画公式サイト】
ファルージャ http://fallujah-movie.com/
新宿、渋谷などの都内をはじめ、
大阪、神戸、札幌など順次地方でも上映していく予定です。