
陝西省の省都・西安から西へ82キロの所にある楊凌。
西安は、秦の都として歴史が長く、シルクロードの起点として、
また世界遺産の兵馬俑がある町として有名ですが、
この楊凌もまた、中国にとって欠かせない歴史を持つ町です。
それが、農業。

(楊凌ICの入口にある后稷さんの像)
歴史が長く、古くから文化が成り立ったこの場所、
楊凌は中国の農耕文明発祥の地と言われています。
4000年前、農業の始祖である后稷(HouJi)がこの地で
「強民稼穡、樹芸五谷」との教えで農業を始めたのだとか。

歴史の長さを表すのが、1800年前に建立されたという
仏教寺「法門寺」。改修を繰り返しながらも健在。
日本や韓国の仏教徒たちと交流を行なっています。

(その隣には、ウルトラハイテク「法門寺」が昨年オープン)
さてそんな楊凌。農業発祥の土地として、また先端地として、
1997年から、中国政府が推進する農村の貧困解消策を
目的とした『農業高新技術産業示範区』プロジェクトを発足。
大胆にも、町全体を農業ハイテク産業都市に改造することに!!

(楊凌の町全体が、ハイテク農業都市に変身!?)
総面積135平方キロメートルの楊凌の町全体をそのまま
改造するのだから、中国のやることは本当に大きいです。

高速道路で楊凌インターチェンジを降りて入口の門をくぐると、
楊凌政府の作ったデモンストレーションセンターが。
楊凌と農業の関わりを紹介するパネルと、
農業高新技術(ハイテク)産業示範区の計画を示したパネル、
成果物の「緑色産品」や品質改良作物が展示されていました。

街中はまだまだ昔ながらの風景・・これが大変貌を遂げるのか。
車を出して頂き、このプロジェクトで既に実施が始まっている、
農村の家庭や養豚場などの排泄物からガス燃料を取得する
『メタンガス回収による家庭用ガス装置』を見学しました。

(ちょっと裕福な印象の崔東溝村の住宅地)
この装置を先駆けて設置し始めたのは、
楊凌でも最北にある崔東溝村。2006年から設置が始まり、
今ではこの集落260戸のうち160戸で取り付けられているとか。

自宅のトイレや牛小屋・豚小屋などで出てくる排泄物を、

自宅裏にある肥溜めタンクに回収します。
このタンクを密閉することにより、メタンガスを発生させます。
発生したメタンガスは、このまま大気中に放流したら
温室効果ガスになりますが、これを逃がさないように
パイプを通じて送り込み、装置にて家庭用ガスに変換。

台所のガスコンロや、ガス灯、ガス暖房などに使われます。
つまり、この装置を農家につけることで、
1.温室効果ガスを削減できる。
2.農家の人たちのインフラが向上し、
かつ排泄物を綺麗に回収することで衛生的になる。
という利点が生まれてくるのです。
中国政府としては、この試みを優良な環境対策として
「中国全土の農村のうち2500万世帯には設置する」ことが目標。
この2500万世帯で回収できうるメタンガスを算出すると、
CO2で年間1億トンの温室効果ガスを削減できるそうです。
専門家も驚きのレベルです。
ただし、この装置を取り付けるためには、費用がかかります。
中国政府と、プロジェクトを推進する部門で三分の一ずつ負担し
残りを家庭で負担するそうですが、この費用でさえ捻出できない
家庭はまだまだたくさんあります。
この村全体が、真っ先にこの装置を採用した村だけあって、
平均年収は農村でも裕福なレベルの5600元/年程度。
※養豚場や養牛場、果樹園などで成り立っているようです。
見学させていただいた崔東溝村の村長・崔致遠氏の自宅は、
確かに広くて清潔で、本当に農村なの!?というほどですが、
それでも、3年経った今も260戸のうち100戸がまだ未設置。
まだまだ高いこの装置。残り三分の一を農家の代わりに、
負担してくれる人がいればいいのだが・・・
という訳で、ここで登場するのが『CDMプロジェクト』です。
CDMとは、温室効果ガス削減義務を負っている国が関与して、
削減義務を負っていない国で排出削減プロジェクトを実施すると、
CER(認証排出削減量)を発行してもらえる仕組み。
日本は、1990年比で-6%の温室効果ガス削減義務を
負っていますが、国内だけでは、この目標を達成できない。
とすると、中国など海外でこうした温室効果ガス削減の
試みに投資をして、目標を達成できるそうです。
例えば日本企業等が、この「メタンガス回収装置プロジェクト」に
投資するなどの関与を行えば、プロジェクトによって得られる
CERを発行してもらえることになり、結果として日本国の
削減目標達成につながるということなのです。
これがいわゆる排出削減量⇒排出権の売買。
排出権の売り手(プロジェクトを作り実施する当事国)は中国、
買い手(それに関与する削減義務を負っている国)は日本。
「排出権」は今や貿易などの売買取引と同じような感覚で、
立派なビジネスとして成り立っています。
いろんな立場の人が存在しますが、私が同行させていただいた
エコ・アセット社は、その中でもユニークな立場にいます。
エコ・アセットは、中国政府などプロジェクトを立ち上げる機関と
プロジェクトを組み立て、効果的な方法をコンサルし、得られる排出権を、
買い手の日本企業等に紹介する業務を行なっています。
こうしたことができるのは、専門的な知識や経験、
そして中国においては人と人との信頼関係が鍵となるのです。
エコ・アセットの社長・青木氏を見ると、終始、流暢でかつ
ボキャブラリー豊富な英語でトークを展開、サービス精神。
中国の優秀なパートナーの皆さんと交流していました。

そして・・・酒。

白酒にワインで乾杯合戦。
おもてなしで出したお酒を一気に「クイッ」と飲み干すと、
接待してくださる中国側は満面の笑顔で喜ばれます。
これぞ中国ビジネスの登龍門!!
・・ということを体感した次第でした。

今回の楊凌の旅。
「農業」=「エコ」=「排出権」と、いろんな視点から
勉強になりましたが、内容が複雑な上、英語と中国語で
交わされたので、私の頭の中は既にオーバーフローです。
誰か、私の頭の中に入りきらなくなった情報を整理するべく、
頭の中にフローしている「モヤモヤ」を買ってくれないかな・・・
知識のエキスが一杯つまった「モヤモヤ」ですよ(笑)

皆様、取材協力ありがとうございました。
楊凌旅遊網 http://www.yanglingtour.com/
エコ・アセット http://www.ecoasset.jp/
ちなみに、排出権取引については、この本が詳しいです。
(2009年に出版した、タイムリーな『排出権商人』)
祝
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